日本正座協会


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第11話 韓国のあったかな家庭の秘密


執筆者:そうな


 爽やかな季節がやってきました。
それと同時に、いきなりまどろみに襲われるこの季節・・・・・・。
ここは敢えてのキムチ鍋で、そんな気分にパンチを食らわせるのも面白いかもしれない!?

 キムチ!ということで、今回も韓国についてのお話しをしたいと思います!
やはり、韓国というとキムチや香辛料が真っ先に浮かびますが、これはキムチの印象なのか・・・・・・それとも、ただ私が食いしん坊なせいなのか・・・・・・。
皆さんは何が浮かぶのでしょうか・・・・・・それもまた、興味のあるところです。
ちなみに私は、韓国の国旗を見てもキムチが連想されます。

 9回目に、「片膝立て」の座法と、「伝統的な衣服」の話しをしました。
今回は、その住まい周辺の話しをしようかと思います。
それでは、立て膝用意で、レッツ韓国!


 人間は、環境や住まいによって衣服や食べ物が変わってくる・・・・・・。
ならば、この立て膝の場合も、立て膝にあった床があるはず・・・・・・!
そう、誰もが、一度は学校の教科書やテレビ等で耳にしたことがあると思う、その名も《オンドル》である。
「温突」と書いて、オンドルと読むのだが、私はそれを最近知った。
何となく、オンドルはコンドルのような類のもので、日本の裏側の方のモノだとか思っていたり・・・・・・。(※コンドルは鳥。南米・中米産で、アンデス山中に多くが住むらしい)
やはり、こうやって漢字で書くと韓国らしいと思ってくるから不思議だ。
私だけかもしれないが。

 以前、友人の韓国人の母に話しを伺った時の事だ。
オンドルの事を聞き、「おぉ、こんなところで韓国の歴史が出てきた!」と思っていると、友人の母は言った。

友人の母「韓国では、今でも床がオンドルの所が多いんです」

そう聞くと、「歴史上のものだ」と思っていた辺り、驚いてしまう。
私は、学校の教科書で習った歴史とは、全て昔の事だと思ってしまう感覚があるらしい。
昔の事は昔の事なのだが、もっと遠い、「昔の人はね・・・・・・」のような《昔》である。

と、まぁ、そこでちょっとオンドルの絵を描いてみた。
このような構造になっている。

(図1:オンドルの構造図)


温める部屋(温突房)の床を二重にして、この床下に煙の通り道を作る。そこに、温かい空気を送り込んで床を暖めるのだそうだ。

友人の母「今で言う、《床暖房》よね。床暖房って、ここからきてると思うの」

そう言われてみると、確かに、これは床暖房である。
私は、床暖房といえばフローリングのイメージがあるからか、イギリス・アメリカ辺りが発生の地だと勝手に思い込んでいた。
それは先入観だっただろうか。

調べていくと、興味深い歴史が顔を覗かせた。
数ある《新しいと称えられるアイディア》も、元を辿れば、《古き知恵の現代化》だったりするのだろうか。

その知恵の一つに、古代ローマ帝国が大浴場を作り、温泉を街にひいていたという歴史がある。その技術があれば、同じ路を利用して床暖房のシステムもできるだろう。いや、実際、していたとかいう仮説もあるようだった。
そう考えていくと、床暖房がどこで発生したかは定かではない。
しかし、韓国のオンドル構造も、床暖房の発展に一役かっている事は、事実であろう。
床暖房・・・・・・どうやら、色々な所であみ出されているようである。色んな国で、色んな時代で、誰もが床に寝そべりながら考えてきたのだろうか。

「あぁ、この床が温かかったらいいのになぁ…」

と。


 その他にも、オンドルの家に対してはもっと沢山の構造の工夫があるようだ。
例を挙げてみると、韓国の冬の気候は厳しく、雪は降らなくてもマイナス20度になったりするらしいのだ。そんな気候に備えて、オンドルという床下暖房で温めた暖気を逃がさないために、部屋の入り口も窓も全て小さくするなどの工夫があるらしい。
ちなみにこれは、梅雨時の湿気に弱く、窓を大きくとって通気しようとする日本とは、逆の作りになっている。
 その家に住む人の衣服に関しても、寒さに対して、女性のチマ(スカート部)は足首まで長く延ばし、男性のパジ(スボン部)は下端を紐で結ぶ。下から寒気が忍び込まないようにとの配慮らしい。日本の和服では、裾を開け放しているので、その考え方からしても、対照的である。
その国の風土が、文化や風俗に及ぼす影響は大きい、との事だった。

 私は、日本の和服に対して、歩きやすさ、はたまた正座などの立ち座りが楽に出来るようにという事くらいしか考えていなかった。しかし、日本独自の環境に対してのデザインも取り入れられていたという事に、今更ながら「なるほどな・・・・・・」と納得してしまうのであった。
やはり、その時代に生きていた人たちの、知恵の結晶が文化として残るのであろう。
無駄をそぎ落としながら、幾度と無く形を変えて、ここまでシンプルにスタイリッシュに作られてきた。それだからこそ伝えられてきた。
《築き上げられた文化》とは、何という《宝物》なのだろうか・・・・・・畏敬の念を抱く・・・・・・。
そして、その便利性を当たり前のように使える事が、先祖からの大きな宝物かもしれない。


 とまぁ、話しを戻すが、友人の母によると、床がオンドルであるため、立て膝になったのだそうだ。
「床が温かい→座る→でも硬い→立て膝」
こんな感じだろうか。
ちょっと簡単すぎる気もするが、まぁ、いい。何百年も前の伝聞の元を辿るのは、無理に等しい。

 その時の雑談の回想に戻ろうと思う。
今でも大半の床がオンドルだと言われたが、オンドルがまだ歴史上の古いモノだと思っていた私は、ストレートにこう切り出してみた。

私「今でも、韓国でオンドルを使っている家は沢山あるのですか?」

友人の母「えぇ、あるわよ。私の実家もオンドルなの」

友人「ぇえ!うそ、あったっけ???」

これには、友人がビックリしたらしい。
なんという展開でしょう。自分の家の新事実ですね。
もしかしたら、日本にも畳のある家庭と無い家庭があるとか、そういう感覚なのだろうか。
友人が驚いている間も、話しは続く。

私「やっぱり、立て膝で床に座るのですか?」

友人の母「そうね、うちはビニールをひいてあるわ」

私・友人「ビニール!?」

これには二人とも驚いた。
今思えば、これが、日本に住んでいる者の「ビニール」と聞いた時の感覚なのだろうか。
当初の私の感覚では、ビニールと聞いて、買い物をした時にもらう袋を想像してしまっていた。
そして、想像は瞬時に奇怪な世界を作り出してしまった。
例えばこうだ。

それは、ある寒い日。
オンドルのある人の家で、会議が開かれた。
その場は、威厳に満ちており、主催者は客が一人来るたび「どうぞ」と言って当たり前のようにビニール袋を手渡す。
客は、それをカサカサさせながら床に広げて、ズレないように慎重に座る。
少し動くたびに袋もズレてしまうので、うかつに動いてはならない。
もしうかつに動くと、袋がズレて隣の人が席を立った拍子にフワリフワリと飛ばされてしまい、部屋の片隅で寂しそうにカサカサしているなんて事になりかねない。
まだビニールの上に座れているものと思い込んでいた当人は、仲間の目線から事態を察し、 自分の油断を悔いながらこう言わなければならないのである。

「もう一枚、袋(ビニール)ください」

主催者は、ビニールにもっと気を遣えと言わんばかりの渋い顔をし、もう一枚手渡す。
そして今日もみんな、立派な主催者の家で、どこかスーパーのビニール袋を尻に敷き、威厳で空間を満たしている。


 なんて、そんなしょうもない想像を、友人の母に微笑を向けたまま考えていた。
しかし、勿論、ビニールとはいっても、そんなレジ袋的な扱いではないはずだ。
聞けば、ちゃんと座る用のビニールがあるらしい。
今度はレジャーシートを思い浮かべてしまったが、家の中で「ごはんよ〜」などといいながらレジャーシートを広げる家庭なんて殆どないだろう。
間違っても、そんなレジャーな日常を送っている国ではないはずだ。

 後に詳しく聞いてみたところ、友人の母がロイヤルホームセンターまで調べに行ってくれたらしい。
そんな身近なところで買えるのか……と、例のビニールに軽い親近感が芽生えてくる。
返答があった……。どうやら、《クッションフロアー》という名前で、日本では売られているそうだ。多くの家庭では、台所や洗面所などの水周りなどに使われていると思う。


図2:要するに、この床だ!(自宅風呂場前)


なんだか、ビニールビニールと書いていたら、ビニールが変な文字に見えてきた。
余談だが、友人や知人に「ビニールと聞いて浮かぶものは?」と聞いたら、大半が「スーパーのレジ袋」や「ビニール傘」であった。(内、一人塩化ビニルの性能のついて語る)
ビニールへの意識ってこんな感じか〜と思わされたひと時であった。
みなさんはどのような事が浮かぶのでしょうか。興味のあるところです。


 さて、せっかくの記事にできるチャンスなので、友人に立て膝についてもっと質問してみた。
先ほど私は、オンドルのある家で会議・・・・・・などと飛んだ想像の世界を例に挙げた。
そのような「正式な場」と、「友人同士(軽い雰囲気)」では、男女の立て膝は変わってくるのかという質問だ。
日本だと、正式な場は正座が多い。そして、友達同士だと、お姉さん座りや胡坐、はたまたわけの分からない格好をしている事が多い。
一方韓国ではというと、友人が言うには、

友人「チマ・チョゴリを着ている時で正式な場所に居る時は、立て膝で座る。友人同士では、立て膝が楽な座り方と思った人は立て膝で座っている」

との事だった。
基本、座り方については自由という事だろうか。
チマ・チョゴリを着るくらい正式な場所では、立て膝ということなのだろう。

次に、女性がズボンの時も立て膝なのかどうかも聞いてみた。
友人はこう答えてくれた。

友人「日本の正座は、正座が楽な座り方と思う人はジーパン穿いてても、正座するじゃん?それと同じようにズボンを穿いてても立て膝が楽だと思う人は、ズボンでも立て膝するよ」

なるほど。
実に分かりやすい。
まぁ、あんまり硬いジーパンだとパツパツして苦しそうなので、柔らかデニムなんかが良さそうですね。

ちなみに、男性は立て膝はやらず、胡坐だったり正座だったりするんだとか。

最後に、韓国ではアメリカみたいに家の中でも靴を履いているのか、を質問してみた。
これは、知人からの質問である。私がビニールビニール言っていたから、「土足なのか?」と疑問に思い、聞かれたのだと思う。
思わぬところで、すごい誤解を招いたものだ(笑)

友人「家の中では靴は履きません。日本と同じよ〜玄関あります!」


 ここまで韓国の正座(立て膝)を調べてきて、私は思った。
それは、特に大きな違いは無いということだ。
初めは、正座じゃなく立て膝だというだけで、何か大きな違いがあるように思えていたが、調べて、そして聞いている内に、正座も立て膝も同じような感覚で、同じような用途に使っているのだな、と思えてきた。
もしかしたら、もっと他に深い事情もあるのかもしれないが、この時点では、日本も韓国も、環境と国が違うというだけで、他に特異点は見つからなかったように思える。
そう思うと、地図上に見る色々な形の違う世界も、結構根本的には同じだったりして・・・・・・。相手国を受け入れる、受け入れないの問題以前に、形が違うだけで、元は同じなのかもしれない・・・・・・。
なんて事を、しみじみと考えるのであった。
そして、ふと冷蔵庫に賞味期限切れの豆腐があるのを思い出し、今日は麻婆豆腐にしよう、と思った。